2013年10月31日木曜日

貨幣に宿る夢と絶望

平野正樹写真展

アベノミクスの喧噪の陰で、国債暴落による財政破綻のリスクが懸念されているという。世界の歴史には、財政破綻がハイパーインフレーションを招き、預金や資産が失われた事例があまたある。その衝撃を映像化した写真家・平野正樹の「MOney」シリーズが、埼玉県東松山市の「原爆の図丸木美術館」で展示されている。
 平野が注目したのは、大日本帝国の崩壊によって紙くずと化した紙幣や債券の類い。
実物の表裏両面をスキャナーで読み取り、大型プリントで細部まで克明に見せる。「戦
時貯蓄債券」や「徴兵保険証書」が戦時下の内地の状況をうかがわせる一方で、「満州
中央銀行券」やマレー半島で日本軍が発行した「百ドル札」は、アジアに版図を広げ
た日本近代史を思いがけない形で想起させる。国家が瓦解すれば、紙幣は価
値を失う。自明の理だが、おばろげな背景に浮かぷ紙幣の鮮明な像には「紙くず」にと
どまらない生々しさがある。例えば、ぽろぽろの「朝鮮銀行券」には日本統治下の庶民
の夢と欲望、憤怒と絶望が染み込んでいるかのよう。貨幣と私たちとの名状しがたい関
係がそこに潜む。
 平野の個展「Afterthe FaCt」 (119日まで)に出品。同展には他に、サラエボ内戦後に残った弾痕を抽象画のようにとらえた「HOleS」、東ティモールで焼き払われた民家の窓をモチーフとした「Windows」など、現代史の痕跡を追ったシリーズも含まれる。     (西岡一正)

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