2012年9月20日木曜日

「障害」の枠、超える強さ(919asahi)

アトリエインカーブ3人展 東京で開催
評価・潮流にぶれない作風


 アウトサイダーアートやエイブルアートといえば、障害を持つ人々の手によるアート作品を指すことが多い。しかしこうした枠組みを設けることは、いいことばかりなのか−。見る側を揺さぶる3人展が、東京で開かれている。
 格子状の骨格に無数の記号状のものが連なる。白と黒だけの画面に近づくと、細部の
中にまた細部があり、さながら動静腎その表現が惜4・3Mの大画面を覆い尽くす。
 重点・初台の東京オペラシティアートギャラリーで23日まで開催中の「寺尾勝広・新
木友行・湯元光男 アトリエインカーブ3人展」は、こうした寺尾勝広(1960年生まれ)の作品群で始まる。
 アトリエインカーブは、知的障害のあるアーティストたちの創作環境を整え、作家と
しての自立を支援する施設。2002年に大阪市平野区に開設され、所属は28人。寺尾の大作が380万円で売れるなどの実績を積んできた。
 今回は、同ギャラリーの堀元彰チーフ・キュレーターが「障害者の絵だからすごい、というのは奇妙。美大を出た人でも、評価できる人、できない人がいる。それと同じように考えて」3人を選んだ。インカーブの今中博之理事長が「自立を超え、独立まであと半歩」と語る作家たちだ。
 溶接工の寺尾が描く絵画は、鉄骨や溶接の目印がもとになっているために、グリッ
ドが現れる。
 新木友行(82年生まれ)が描くのは、こよなく愛する格闘技の場面。フォアマンやタ
イソンの試合を自身の目を通してデフォルメ。筋肉の異様な緊張感や腕の伸びをストッ
プモーションのようにとらえ、ポップかつカツコいい。湯元光男(78年生まれ)は、
建物や生き物を色鮮やかに切り絵のように連ねてゆく。
 「部分と全体」 「ポップな身体」 「色面の構成」などのテーマ廣でも、それぞれ選ばれそうな表現だ。
 今申理事長は当初、彼らをアウトサイダーアートとして紹介していた。しかし、「イ
ンとアウトに分けるのはおかしい」と気づく。「作家名から始まる展覧会は、今回が初
めて。いずれインカープの名前も不要になってほしい」
 好きなものを描き繚ける彼らには、自然な作風の変化はあっても、自覚的に作風やモ
チーフを展開したり、評価や潮流を意識することはないという。そこが他の作家との違
いだが、「軸がぶれないことこそ強み」と今中理事長。
 その表現は、進歩や展開を重視する近代以降の美術のありよう自も揺さぶっている。 (解集委員・大西若人)

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