2012年9月20日木曜日

フクシマから未来へ(905asahi)

福島現代美術ビエンナーレ
「人類が向き合うべき問題を発信」深刻な原発事故を経験した福島県で、大型の国際美術展が開かれている。福島空港ビル(同県玉川村)を主会場とする第5回「福島現代美術ビエ
ンナーレ」だ(23日まで)。福島大学の学生らが運営してきたが、今回はオノ・ヨーコら国内外の著名作家が自主的に参加し、「フクシマ」から未来への希望を発借している。
  空港ロビーに高さ約6Mの子供の像が立つ。防護服姿だが、ヘルメットを脱いで空を仰ぐ。胸の線量計はゼロー。東京電力福島第一原発の事故から着想をえたヤノベケンジの「サン・チャイルド」だ。苦難を乗り越えて前に進む、今回のビエンナーレを象徴する作
品となった。
 福島現代美術ビュンナーレは、福島大学の学生の妾践教育と地域の活性化を目的に2004年にスタート。これまでの会場だった福島市内の文化施設が被災したため、今回は福島空港で開催している。
 実行委兵長の渡辺晃一・同大准教授らが東日本大震災後に始めた、子どもたちにこいのばりを描いてもらうプロジェクトが広く紹介されたことから、ビエンナーレにも注目が集まった。国内外から自主的な参加申し込みが相次ぎ、出展作家は米、独、仏、メキシコな
どからの参加も含めて約70組。学生らを加えると総数は150組に達する。
 今回のテーマは「SORA(空)」。渡辺准教授は「『SORA』は、福島の美しい空であると同時に世界につながっている。震災や原発事故を受けて福島の地で開くビエンナーレにふさわしい」と話す。
 その期待に応えて、オノ・ヨーコは空を措くことを呼びかける「SKYPIECE for Fukushima」などを出展。子供たちが描いた空の絵がロビーに浮かぶ。米国在住の長沢伸穂は、地球を手のひらに載せる画像をたこにした作品とともに、米国と福島の学生が制
作したオブジェをペアにして展示するプロジェクトを手がけた。
 震災と原発事故という現実を反映した作品もある。
 吉田重倍は空港に隣接する公園に子ども用の靴を多数配置し、水と鏡で虹をかける。震災の犠牲者や他の地域に避難した子供たちを連想させる。武田慎平は、東北・関東地方の戦跡など12カ所で採取した土壌を写真フィルムとともに暗箱で保管し、そのフィルムから
焼き付けた写真を出展。星空のような画像が実は可視化された放射線と知る衝撃は大きい。
 会場の福島空港は展示施設ではないうえに、市街地から離れている。予算も他の国際美術展に比べれば2桁少ない。それでも「サン・チャイルド」の輸送費を募金でまかなうなど、作家やサポーターの熱意に支えられて開催にいたった。「福島から人類が向き合う
べき問題を発信できる機会。参加できてよかった」(ヤノベ)という声があがっている。  (西岡一正)

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