2012年9月20日木曜日

カラマーゾフ「続編」、遊び心満載(911asahi)

江戸川乱歩賞の高野史緒
 今回の江戸川乱歩賞は異例尽くしだった。公募の新人賞なのに、受賞したのはプロ作家の高野史緒。受賞作『カラマーゾフの妹』(講談社)は、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の続編だ。選考委貞2人が、選評で「安易にまねしないように」と今後の応募者に釘を刺した。

 高野は1995年に日本ファンタジーノベル大賞最終候補作『ムジカ・マキーナ』でデビュー。SF作家として活躍するが、「一生に一度だけ」と決めて、ミステリーの乱歩賞に応募した。
 受賞作は『~兄弟』の13年後の物語。ドストエフスキーは第2部を予告しながら、第1部だけを残して世を去った。カラマーゾフ家の次男イワンが未解決事件専門の捜査官となって故郷に戻り、父フョードルが殺された事件を洗い直し、真犯人に迫ってゆく。
 「納得できないところは130年前の物語だからわからないと思っていた。でも、亀山郁夫さんの新訳で読み直したら、むしろ現代のミステリーの感覚で読めばいいのでは、と思うようになった」
 原作で、フョードルは悪から身を乗り出した時に、後ろから頭を殴られたとされながら、胸元を大量の血で染めて仰向けに倒れていた。論理が通らないように感じたという。「『罪と罰』であれだけ殺人シーンを綿密に書きながら、ここでミスをするとは思えない。変だなというところはミステリーではすべて手がかり」。事件と関係ない、三男アリョーシャと少年たちの交流も、描写が精密で丁寧であるほど第2部への布石に見えてくる。大胆に、そして矛盾のない、遊び心あふれる第2部になった。
 研究者がためらいそうな道を自由な想像力でどんどん進む。思い返せば院生時代、論文を書いていても勝手な想像をしていた。お茶の水女子大大学院で、故瀞都戯妙名著教授がかけてくれた「学者はtruthから離れられない。小説家はtruthを超えて真実を追求できる」という言葉を、今も大切にしている。
 「もともとSFのやり方で書いていたのは、truthを超えて真実を求めることが面白いから。現実じゃない要素を一つ取り込むだけで、いろんな発想が出てくる。そうすると、現実の中の人間が見えてくる」  (中村真理子)

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