2010年9月28日火曜日

脇役「かげ」に光(922asahi)

国立美術館5館が企画「陰影礼讃」展



国立美術館5館が企画「陰影礼讃」展


 「陰」と「影」の違いをご存じですか。東京・六本木の国立新美術館で開催中の「陰影礼讃」展は、いつもは脇役の美術作品の「かげ」に注目した珍しい企画展。しかも、独立行政法人国立美術館が運営する五つの美術館が共同企画し、コレクションだけで構成した異色の展覧会でもある。(西田健作)

画家の巧みさ映す



 まずは、「陰影法」を基に同展が示す「かげ」の違いから。展示されたアレクサンドル・ロトチエンコの「階段」=写真国=を見ると分かりやすい。「陰」は光がさえぎられて薄暗く見える部分のことで、階段の暗い部分がこれに当たる。また「影」は足元や地面に落ちる人や物のかげのことを指すという。
 「陰影礼讃」展は、独立行政法人国立美術館の発足10年を記念した企画。同法人は、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館、国立新美術館を運営している。
 2007年秋から、5館の学芸員が展覧会についての議論を重ねてきた。それぞれ守備範囲が違う5館が共通して取り組める企画として「陰影」をテーマに選び、合計約3万3千点の所蔵品から展示作品を選んだ。
 会場では100作家の170点を4章に分けて展示する。第1章で影と陰の違いについて触れた後、絵画や版画のかげ、写
真のかげ、現代美術のかげを順に取り上げる。
 絵画や版画にとって、かげは立体感や実在感を表すものだ。一方、展示作品を見ると、画家が陰影を巧みに操作していることが分かる。
 例えば肖像画。17世紀の画家フセーペ・デ・リベーラは、哲学者の深い精神性を、誇張した陰影によって措く=写真口。顔の陰から左側が光源のはずだが、背景はなぜか左側の方が暗い。平山郁夫や松本竣介は人をシルエットとして措き、平山は釈迦を囲む弟子の心情を、松本は都会人の孤独を表現する。
 また、モネの風景画の影には色があり、空想を措いたシュールレアリスムの絵にすら陰影があることに気が付く。2次元のカンバスに3次元を表現する画家にとって、かげがいかに重要だったかが分かる。一方、写真では、映り込むかげをどう生かすかに工夫を凝らす。「階段」は陰影による構成美を追求した作品。現代美術になるとかげも多様になり、高松次郎の「影」=写真B=では、人がいないのに本物そっくりの影があり、想像力を刺激する。
 もっとも、今展の企画を提案した国立国際美術館の中西博之主任研究員は「5館の共同企画で、展示も所蔵品に限られたので制約も大きかった」と話す。例えば、かげを意識的に描いた絵は、ルネサンス期の作品にさかのばれるが、そのころの作品はばとんどない。また、約78万人を集めた「オルセー美術館展」と「日展」に挟まれ、展示期間も1カ月余りに限られてしまった。
 ただし、「かげ」という切り口によって所蔵品が新鮮に見えることも事実だ。国立新美術館の宮島綾子主任研究員は「かげを意識すれば見方が広がり、ほかの作品の楽しみ方も増える」と期待する。
 予算不足に悩む全国の美術館は近年、所蔵品をどう見せるかに工夫を凝らす。複数館の所蔵品を新たな切り口で見せた今展は、その好例ともいえる。
 ◇10月18日まで、垂泉・六本木の国立新美術館(ハローダイヤル03・5777・8600)、火深み。

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