2012年3月24日土曜日

息をのむすごみと独創(321asahi)

ジャクソン・ポロック展
 伝説、至高、美術に革命。今回の回帝展のチラシに記される通り、画家ジャクソン・ポロック(1912~56)は、戦後美術の大潮流である米国の抽象表現主義を代表する。床に広げた画布に、アルミニウム塗料などを滞らせ、流し込む。身ぶりそのものの線を重ねたアクション・ペインティングで知られるが、70点ほどのうち、そこに至るまでが約40点もある。
 この30年ごろからの「助走期間」を見ると、同時代の米国絵画から、先住民の芸術やメテンコの壁画運動、超現実主義、そして何よりピカソの形書が目まぐるしく表れ、捲れ裁ける。潮流や他の作家が気になって仕方がない宙さ。酒にも依存する。風星でもキュービスム絵画でも、温貢さや岡本太郎の初期絵画に患た味わいを残す。一方、うねる筆の動きや、両の分割・稚居で絵画空間を漣等していく点は比較的一斉している。
 47年に画面全体に塗料をたらす手法を確立するが、それも天才的な啓示によるのではなく、先住民の砂絵や超現実主我の自動記述に影響を受け、試行を重ねた未だという。うねる筆致の発展形の面もあるだろう。
 しかしその到達点には息をのむようなすごみと独創がある。例えば「インディアンレッドの地の壁画」 (50年)は大画面全休に、銀色や白、貴、そして黒の滴りの線が重ねられている。
 モダニズム絵画は画面の外にまで広がるような平面性を特異とするが、この絵は、時に麦胆にしぶき、時に精妙に細く、時に神経質に集える線をうねりのように交錯させつつ重ねることで、官能的なまでの奥行きも獲得。それは作者の動きの軌跡であると同時に、視線の軌跡でもある。その様み重ねが宇宙の起源のような空間となり見る者を包む。透徹した意志によるコントロールすら感じさせるのだ。
 しかし発くことに、この表現をわずか4年ほどで手放し、再び土俗的で面的な要素の強い絵画に戻っていく。至高の表現は自身の持ち味とは違って居心地が悪かったのか、またしても裔さの故なのか。自動車事故で早世するまでの追い立てられるかのような変化に、進歩を旨とするモダニズムの申し子の姿を見る。  (相集委員・大西若人)
 ▽5月6日まで、東京都千代田区北の丸公園3の1の東京国立近代美術館。4月9、16、23日休館。

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