2012年3月24日土曜日

清水晃と吉野辰海(314asahi)

決め技が語り出す
 60年代の「反芸術」から出発し、70年代に独自の表現を再構築したー。さいたま市・北浦和公園の埼玉県立近代美術館で25日まで紹介されている清水晃(75)と吉野辰海(72)を、平野到・学芸員は、そう評する。
 写真を使ったコラージュでも近年のレリーフでも、清水作品には何度もハサミが現れている。
 70年代後半からの代表的な「漆黒から」シリーズの立体の一部にも登場。海岸で拾った釣り針や竹ひごなどとともに、機械のように組み上げられている。
 ヤマアラシのようにとがった切っ先に身を包み、経済成長を遂げてきた世にあらがうかのようにも見える。ハサミは同シリーズの平面作品にも、姿を見せている。
 ものを切断し壊すと同時に、何かを創造する可能性も秘めた両義性にひかれるのだとか。いわば、反芸術と表現行為の隠喩だ。一方、前衛集団「ネオ・ダダ」にも参加した吉野は、一度見たら忘れられない犬の作品で知られる。
 やせた犬が人のように立ち上がって身をよじり、あえぐ。作者によれば、内臓を見れば人間も犬も同じで、犬は生命体全般のシンボリックな記号となっている。
一見グロテスクな犬からは、人類に普遍的な、苦悩も思索性も、内面からの叫びも見て取れる。
 ハサミにせよ犬にせよ。決め技となる表現要素を持ち、それによって語るべきことのある作家は強い。(大西若人)

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