2010年8月21日土曜日

「空想の建築」精密な描写(816asahi)

画家・野又穫さんが大規模個展

 太古に夢想されたような「空想の建築」の描き手として知られ、本紙朝刊文化面の今年の新年連載「新・大きな物語」への挿絵提供も手がけた画家・野又穫さん(54)。その大規模な個展「もうひとつの場所−野又穫のランドスケープ」が29日まで、群居県高崎市の県立近代美術館で開かれている(23日休館)。
 現在の作風に至る前の初期作から、新作まで100点以上。図録も青幻舎から書籍として発売されている。

 とりわけ、大作の絵画を集めた第2展示室が壮観だ。帆や羽根車で風を受ける建築、気球を備え浮かび上がりそうな建築、そして、巨大な温室を備えた建築。射程の長い空想力に基づくのに、建築史家の藤森照信さんがお墨付きを与える、建築構造と細部へのセンスも備えている。細いワイヤやぎらついた壁の質感から、大空を流れる雲までを描き分ける精密な描写力があっ
てこそだろう。
 ごく一部の初期作を除き、人は登場しない。どの時代のどんな場所なのかも分からない。いわば「どこでもない場所」。人間が作り出したものはもとより、土地や水も所有の対象となるこの時代に、空想力だけは他人に所有されない自由と解放感がある、と改めて思わせる。
 酷暑の夏。野又さんの空想の建築の前に立つと、世俗から遠く離れた風が吹いてくるような感覚がある。
      (大西若人)

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