2010年6月26日土曜日

妻の死問う作品終止符(623asahi)







写真家古屋誠一 2カ所で個展

25年前に自ら命を絶った妻と、写真を介して向き合ってきた写真家古屋誠一の個展
 が、東京都写真美術館とヴァンジ彫刻庭園美術館(静岡県)の2カ所で開かれてい
 る。古屋は1989年から「メモワール」と題したシリーズで妻の写真を発表してき
 た。垂見での展覧会名は「古屋誠一メモワール.」。シリーズを締めくくろうと、
 ピリオドを打った。                 (西田健作)

終わりなき苦悩あらわ

 古屋は50年、静岡県生まれ。20代前半からヨーロッパを拠点に活動している。78年にオーストリアで妻クリスティーネと出会い、結婚。息子の光明・クラウスが生まれた。だが、統合失調症の兆候があらわれた要は、85年に高層住宅から身を投げてしまう。
 古屋はこれまで「メモワール」を、亡き妻と対話するように自分白身の手で構成してきた。だが終止符を打った都写真美術館の展示は、30代の学芸員2人に任せた。
 写真作品124点の展示は七つのパートに分かれる。その一つ「光明」では、息子の誕生から成人までが時系列に並ぶ。息子の成長とは対照的に、一緒に写るクリスティーネは徐々に病的な表情に。
 「クリスティーネ」のパートでは、白死した85年を起点に時間がさかのばる。表情には次第に精気が戻り、会場出口近くの「伊豆」では、来日した彼女が愛らしくぼほ笑む。
時計の逆回しは残酷ですらある。
 担当した同館の石田留美子専門調査員は「ここまで自分の人生をさらけ出すのは、表現者としては意味があったとしてもっらいこと。これで本当に最後となるような意気込みでつくった」と話す。
一方、ヴァンジ彫刻庭園美術館の「古屋誠一展AuS den Fugen」展では、古屋が構成した2007年の展示をほぼ再現している。
 作品は、断片化された記憶のように時系列には並ばず、都写真美術館の展示とは大きく異なる。クリスティーネがすがった木の枝の十字架、2人の最後のベネチア旅行、泡風呂から顔だけ出した妻。
 美術館「IZU PHOTO」の研究員で、今展を担当した小原莫史さんは「治りかけたかさぶたをはがすように、古屋は時間の迷路の中に入り込む。これまで自分で展示の構成を決めてきたのは、人に任せると整理されてしまうからだろう」とみる。
   
 ならば、他人にゆだねた「メモワール.」は、締めくくりとなるのか。
古屋は4月下旬に急病で倒れ、展覧会に合わせて日本に来ることはできなかった。
だが、倒れる前に都写真美術館の問いに対し、「おばろげながらも所所詮何も見つかりはしないのだという答えが見つかったのではないか」と答えている。他方で、倒れた後に改めて真意をただすと「叶えられない願い故に、あえて逆(ピリオド)を強調したというのが事実」とも。
 過去に戻ることができない以上、写真をいくら見つめても解決はない。メモワールに打ったピリオドは、終わりなき苦悩をかえってあらわにしている。
 ▽「メモワール.」展は7月19日まで。東京・恵比寿、祝日以外の月曜休み。熊本市現代美術館に巡回。
「AuS den Fugen」展は8月31日まで。静岡県長泉町、水曜休み。5月には最後のメモワール
     作品集「MemOireS.1984~1987」も出版された。

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