2010年6月26日土曜日

絵本作家の最新太さんが亡く なって、きょうで5年になる。(625天声人語)

「かわいいだけの本は子どもへの冒とく」と、読み手の受容力を試すような仕事を残した。正義や優しさを説くこともなく、作品はオトナの常識を粉砕していく▼(とおくのぼうから/おとこのこがとんできました)で始まる『ゴムあたまボンたろう』は、ゴムの頭を弾ませて世界を回る少年の話。『ブタヤマさんたらブタヤマさん』の主人公は、チョウを追うのに夢中で、背後に迫る巨大な鳥や魚に気づかない。振り返った時には何もいない▼ブタヤマさんの主題は自己中心的状況だと論じたのは、哲学者の鶴見俊輔さんだ。
「胎児からの時間があまりない、気配の感覚を十分に持っている子どもには素障らしい絵本だと患う。大人にとっては哲学論文」▼読み聞かせる大人が首をかしげる絵と筋に、子どもは笑い転げる。理屈ではなく、筆ひとつで童心とやりとりできる異能の主だった。半面、子どもに
こびた退廃といった批判も受けた▼近刊『長新太の絵本の不思議な世界』 (晃洋書房)の著者、村瀬学さんは「子ども向けという絵本観を覆し、日本で初めて、考える絵本をつくり出した」と語る。半世紀にわたる創作活動の評価は、没してなお定まらない▼さてどんな代物か、絵本になじみのない向きは週末の図書館で確かめてほしい。干からびた常識のタガが心地よく、ポポーンと外れること請け合いだ。頭と心をほぐすのに、適すぎることばない。代表作『ごろごろ にゃーん』には(2才から大人まで)とある。

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