2013年8月2日金曜日

澄川喜一「そりのあるかたちー1」(731asahi)

木の素材的宿命、生かした

 木は切ったり、水分が抜けたりすると、反り、割れるという素材的宿命を持っています。それを形に押し込めては、木を殺してしまう。木の美しさを生かせないかと考えたら、「そりのあるかたち」になったんですよ。これが第1作です。
 脚のある水平面の上に反りのあるものが、少しズレて載ると面白いな、と。空間を大胆に切って視覚的な音楽を奏でられないかという狙いもありました。
 木に関心を持ったのは、山口県岩国市にある旧制の工業学校に通っていた頃です。錦帯橋を見て木造建築に興味を抱き、古い建物を調べました。五重塔なんかは、木の性質をう
まく生かして組み上げているんですよ。これが、彫刻をやろうと思ったきっかけです。
東京藝術大では木彫の平櫛田中先生にも教わりましたが、粘土を使う塑像が中心。新制作展に出品し始めても、当初は塑像を出していました。木を使い始めたのは、1961年にアトリエを持ってからです。
 この作品を新制作展に出したときも不安でしたが、幸い、その後、平櫛田中賞をいただきました。誰かが「錦帯橋だろう」と言いましたが、どこかで意識していたのかもしれま
せん。
 私は田中先生がご存命中の最後の受賞者です。先生は私の作品について「分からんなあ」と話されたそうです。でも先生の場合、「分からん」は面白いという意味。芸大退官
のときも、「芸術は自分で探すもの」とおっしゃいました。人のまねをするな、新しいものを作れという教えで、ずっと大切にしてきました。
 今も、もっといいものができるのではないか、と続けています。それが、デザイン監修を務めた東京スカイツリーにもつながりました。秋の新制作展にも「そりのあるかたち」
を出します。 (聞き手・大西若人)
 すみかわ・きいち
1931年、島根県生まれ。東京芸術大学彫刻科卒。同大教授、美術学部長、学長を歴任した。カーブした木を組み合わせた抽象彫刻の方、石や金属による野外彫刻でも知られる。2004年に日本芸術院会員、08年に文化功労者。

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