2012年10月25日木曜日

時代を映す顔(1017asahi)

篠山紀信展 写真力/及川正通 イラストレーションの世界
 マスメディアを通して、ある時代の記憶と分かちがたく結びついた「顔」がある。そんな「時代の顔」の集成ともいうべき展覧会が二つ開かれている。

 湖面に浮かぶ水着姿の山口百恵は、1970年代を知る世代に広く共有されるイメージだろ
う。口づけを交わすジョン・レノンとオノ・ヨーコの姿は、その後に続いたレノンの暗殺(80年)という凶事を呼び覚ます。
 撮影者は篠山紀信。60年代末から現在まで、雑誌などに発表した写真から約130点を選ん
だ。大型の写真がひしめく展示=写真上=から、篠山が並走した時代の諸相が浮かび上がる。
 被写体は芸能人やスポーツ選手、作家や芸術家といった「スター」たち。東京ディズニーランドのにぎわいや、歌舞伎の絢爛たる舞台も交じる。鬼籍に入った著名人の肖像を黒い壁面に配した演出を別にすれば、総じて活気にあふれて向日的な写真が並ぶ。例外は、東日本大震災の被災者の肖像が並ぶ最後の展示室。がれきを背景に立つ無名の人々の姿に、時代の切断面が見える。
一方、イラストレーター及川正通は、36年にわたって情報誌「ぴあ」に伴走。俳優や歌手、アイドルらを措いた表紙は1300点を超す。そこから選んだ原画約200点を展示する。
 大きな頭部に小ぶりな体という独自のスタイル。それでも対象の人物をリアルに感じさせる秘密は、点と線による細密な描写と、初期はエアブラシ、近年はコンピューターによる丹念な彩色にあることがうかがえる。
 そこに、いたずらを加えるのが及川流。.ひげそりをほおにあてる広末涼子=同下、97年=や、白地に目鼻と廣だけのマイケル・ジャクソンといった「肖像」には、親愛と諧謔、批評が入り交じる。バルセロナ五輪(92年)特集号の表紙は、ガウディの有名な建築を背景にした田村亮子らしき後ろ姿。顔だけでなく、背中でも時代を措いた。
 「ぴあ」は昨年夏に休刊。情報が紙媒体からネットにシフトした、時代の変化もそこに見える。      (西岡一正)

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