2012年8月24日金曜日

メリエスの素晴らしき映画魔術(824asahi)

「宝物」復元した熱意








ジョルジュ・メリエスは映画史上最初の巨匠と言うべき人物である。マジシャンだったこのフランス人は、1895年にリュミエール兄弟が映画を発明すとすぐ、この技術で物語性のある見せ物的な面白さで一杯の作品をたくさん作った。とくに奇抜なトリック撮影で評判を呼び、そのアイデアの豊かさにはいまでも感心させられる。遠い歴史の彼方にいるこの人物を久しぶりに思い出させたのは、さきごろ公開されたアメリカ映画「ヒューゴの不思議な発明」で、そこには映画づくりを止めて落ちぶれた晩年のメリエスが登場する。そして忘れられた彼の作品を保存しようとする人々も描かれる。
 あの映画はフィクションだが、じつは彼の代表作の「月世界旅行」の彩色版の古くて溶けかけていたフィルムが発見されていて、研究者たちの手で10年かけてコツコツ復元作業が行われていたのだった。彩色版というのはフィルムに直接筆で絵の具を塗って作ったカラー映画である。これが残っていたというのは本当に珍しく貴重である。
 セルジュ・ブロンバーグとエリック・ランジュ監督の「メリエスの素晴らしき映画魔術」は、この復元作業を中心としてメリエスの生涯とその仕事を描いたドキュメンタリーである。昔のフィルムは長い年月のうちに溶けて固まってしまう。それをナイフでそっとはがしてゆくという、いつ終わるかと思うようなしんどい手作業から始まって最新の技術の開発を待たなければならない作業まで、この古いフィルムを宝物と信じなければやれない苦闘が感動的である。
 こうして復活した映画史初期の15分の超大作「月世界旅行」の、なんという無邪気さ!こ
れが映画の初心なのだ。(佐藤忠男・映画評漁家)
 25日から各地で順次公開。

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