2012年8月17日金曜日

試し書きは無意識のアート(815asahi)

 文房具店のペン売り場に置かれたメモ紙の「試し書き」。その「無意誅のアート」に魅せられた男性が、世界49カ国から計約2千枚の試し書きを集め、この春から都内や関西で展示会を開いている。その奥深い魅力とは−。
 49カ国のペン売り場から2000枚収集

 5年前、ベルギーの文房具店。千葉県浦安市の寺井広樹さん(32)は店内の試し書きに、目を奪われた。カラフルな色づかい。擬人化されて帽子をかぶった豚のような図柄。「額に入れて部屋に飾りたい」と、店に交渉して譲り受けた。
 ペンの書き味を試す。それは下書きでも落書きでもない、半ば無意識の行動ではないか。そこに人間の本質が見えるのではと考え、収集欲に駆られた。
 魅力を伝えたいと、3月に重点・原宿で「世界タメシガキ博覧会」を開催。関西などでも開き、メディアで紹介されると、海外からも試し書きが送られてくるようになった。
 お国柄も表れる。エチオピアやカメルーンではちゃんと書けるかが重要と見えて、シンプルで筆圧強めの「本気度の高い」試し書きが多い。フランスやイタリアでは女の子や万年筆などおしゃれな絵が措かれている。
 意味のない線やハートマークは世界共通だが、「お母さん大好き」というメッセージは世界各国に見られる。「おなか痛い」との試し書きに対し「大丈夫?」と書き込むツイッター型に心温まることも。寺井さんが今一番気になるのはメキシコ。ペンが包装されていて試し書きコーナーがないと聞いた。寺井さんは「確かめるためだけに旅行したい」と熱く語る。
 様々な人が書いてできあがる紙全体のバランスが重要。だが、「もう少し待てば傑作になるかも」と近くでお茶を飲んでいる間に店員さんに捨てられてしまった経験もある。個人情報の保護を理由に断られることもあるという。
 寺井さんの本職は離婚を親戚や友人の前で宣言し、再出発を撃つ「離婚式」のプランナーだ。いまさらそれぞれめ両親に気に入られる必要もない人たちと向き合う仕事について、「うまく書く必要のない試し書きの魅力に通じるかも」と話す。
 試し書き収集は口コミで「愛好家」が増え、2年前から不定期に文房具店をまわっ
ていた「タメシガキツァー」は今年から月1回の定例となった。多い時は外国人を含めて20人が参加している。9月23日からは東京都渋谷区の「文房具カフェ」で博覧会が開かれる予定だ。(吉本美奈子)

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