2012年8月17日金曜日

重なる絵の具が語り出す(801asahi)

石川順恵新作展/安藤正子-おへその庭
 絵の具の層を重ねて画面を作る。油絵などに見られる、そんな描写方法が持つ可能性の広さを、2人の女性画家の個展で改めて確認した。
       
 まず、石川順恵(1961年生まれ)のアクリル画11点による新作展。伸びやかな筆敦による抽象画で知られてきたが、今回はその上に、格子模様が重ねられている=写井上は「impermanence」。
 硬賓な「グリッド」と呼ぶようなものではない。柔らかく、移ろいやすい格子の層が部分的に重なり、さながら格子戸の趣。淡いピンク地に奔放な緑の筆致が走る奥の層へと、視線を誘う。コラージュ風でもあり、浮遊感のある、みずみずしい映像的な表現が生まれている。

 安藤正子(76年生まれ)は、9点の油絵を含む19点を美術館での初個展に出している。こちらは対照的に、精細に描かれた人物や動物、植物の絵だ。
 磁器のように平滑な画面が際だつ。手の跡、筆致がほとんど残っていない。ときに紙ヤスリをかけ、薄い絵の具の層を華や手で重ねて生まれた。画面の中に幾重もの層が潜んでいるのだ。一種人工的な絵肌から浮かび上がるものも、どこかつくりものめいている。例えば「スフィンクス」と題された07年の作品=同下。裸の女性が机に座っている姿が描かれているが、わきの下に花をはさみ、よく見ると、目も赤い。そして、不釣り合いなほどに武骨な手。
 平滑な画面とシンプルな構図。選びに選び抜かれた繊細な線ゆえに、逆に不思議な部分が浮上し、違和感を漂わせる。現代社会を覆う空気にも通じ、タイトル通り、さまざまな謎を見る者に問いかける。
 絵をじっと見つめる。画面の中に折り重なる、描かれた「時間」の異なる絵の具の層がほどけて語り出すとすれば、これぞ絵画の快楽と呼んでもいいだろう。  (編集委員・大西若人)
 ▽石川展は4日まで、東京・京橋3の6の5の南天子画廊。安藤展は19日まで、東京・北品川4の7の25の原美術館。月曜休館。

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