2010年10月29日金曜日

いま再び写実(1027asahi)

主義から思想へ若手が台頭


 

写実的な絵画が精気を取り戻している。11月3日には写実専門の私立美術館「ホキ美術館」が千葉市に開館し、神奈川県の平塚市美術館では現在、写実を追求した磯江毅の回顧展が開催中だ。ほかにも1960~70年代生まれの世代に、写実に取り組む作家が目立つ。デジカメ写真をパソコン上で簡単に加工・修整できる時代に、なぜ写実絵画なのか。(西田健作)
 ホキ美術館は、現代の写実絵画だけに的を絞った珍しい美術館だ。医僚用品メーカー・ホギメディカルの創業者保木将天さん(78)が館長を務め、自身の約300点のコレクションから常時約160点を展示する。

  展覧会は完売

 保木さんは「この10年で写実が脚光を浴びていると感じる。百貨店で写実の展覧会があれば完売になり、年に1度、コレクションを公開すると1日千人もの人が来るようになった」と話す。
 コレクションの中心は、森本草介、野田弘志、中山忠彦の作品。3人とも1930年代に生まれ、一貫して写実に取り組んできた。森本は理想化した女性像を措き、野田はリアリズムを徹底して追求、日展の理事長でもある中山はアンティーグな衣装をまとった妻を繰り返し描いてきた。
 3人は着実に支持されてきたが、抽象的な絵が主流の80年代まで、大きなうねりになることはなかった。だが、写実に詳しい奈良県立美術館の南城守学芸員は「80年代末から90年代にかけて、公募団体展で活動する若い世代が群れをなして写実に取り組むようになった」と話す。
 特に91年の企画展を通じ、スペインの画家アントニオ。ロペス・ガルシアらの「マドリード・リアリズム」が紹介されたことが大きいという。
「日本では、写実の画家は発想力が無いという目で見られてきた。だが、ロペスらの絵を知ることで、写実に深い思想性を込め、ほかの現代美術の作品に負けないものを措けることが分かった」とみる。
 東京・日本橋にある春風洞画廊の横井彬社長は「芸術性に加えて、マーケットもある」と話す。「大きな美術運動が無くなるなか、中山、森本、野田の成功を見て、若い画家たちが後に続いた」
 描く側はどう考えているのか。若手の代表格・諏訪致さん(43)は「主義で美術を語る時代は終わっている。だから、写実主義の復権ではなく、あるべき絵の方向性を作家ごとに探しているだけ。でも、人の形を描いたら美術じゃないという状況が無くなったことだけは確か」と話す。
 平塚市美術館で個展が開かれている磯江は、マドリード・リアリズムの画家だった。54年生まれで、スペインを拠点に制作、07年に病死した。公立美術館では初個展。静物画を中心に約60点を並べた。担当した小池光理学芸員によると、長時間、絵を見る人の姿が日立つという。小池学芸員は「個性ばかりを主張するのではなく、ストイックに措いていることが分かる絵だからこそ、多くの人に受け入れられるのでは」とみる。
  
作家比べる場

 もっとも、現代の写実絵画が定普するかどうかばこれからだ。ホキ美術蛇の展示には、森本の後を追うような美しい女性を描いた甘美な絵が目立つ。南城学芸員は「美しい女性を措くのなら、なぜ描くのかという問いかけが無いと、単なる売り絵になってしまう」と心配するじ新たな拠点は、作家を比較する場にもなる。写実絵画も選別の時代に入ろうとしている。
 ▽ホキ美術館は千葉市緑区あすみが丘東3の15にある。電話043・2C5・1500、祝日以外の火腿日など休み。平塚市美の「機江毅展」は11月7日まで、月曜休み。

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