2010年7月18日日曜日

「ぼくのエリ 200歳の少女」(716asahi)

悲しみたたえた吸血鬼

 怖いだけでは不十分だ。恐怖の先に悲しみが立ち上がってこなければ、優れたホラー映画とはいえない。ドラキュラも狼男も、お岩も貞子も無量の悲しみをたたえていた。エリと呼ばれるこの吸血鬼の悲しみも、彼らに勝るとも劣らないほど深く重い。
 主人公はストックホルム郊外に住む少年オスカー。ある夜、隣室に、黒髪の少女エリとその父親らしきホーカンが越してくる。いじめられっ子のオスカーは孤高を保つエリに引かれていく。一方、町は殺人事件で騒然としていた。
 トーマス・アルブレッドリン監督は、複数の事象を引きの映像で同時に見せるのがうまい。オスカーとエリの部屋の窓。監禁された生徒と、別室で息をひそめる犯人。エリを捜す看護師と、背後の壁を伝う少女の影。
 寄りの映像は慎重に排しっつも、しかし、ここぞという時にはエリやオスカーらの表情をきちんとアップで捕らえる。そのメリハリによって、彼らの感情と私たちの感情が劇的に結びつけられる。
 ホーカンはわびしい中年男だ。彼は、黙々と人を殺してはエリに新鮮な血を与えている。いつ、どうしてエリの保護者になったのか、映画は何も語らない。そしてある時、ホーカンは命を落とす。
 この物語はオスカーの成長を軸に進む。エリの激励で、彼は身体を鍛えていじめに立ち向かう。エリの正体を知った暗も、最初は嫌悪するが、やがてすべてを受け入れる。
 ラストシーンのオスカーにはいじめられっ子の面影はない。頼れる男の顔だ。一体これはハッピーエンドなのだろうか。あまりに悲しきハッピーエンド。そして私たちは唐突に、ホーカンがなぜエリの保護者になったのかを理解することになる。(石飛徳樹)
 東京・銀座テアトルシネマで上映中。順次各地で。

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