2013年6月26日水曜日

「顔」で作る街の風景(619asahi)

JR展  世界はアートで変わっていく

 見慣れた街や建物の姿をがらりと変えてしまう。東京駅舎などにCG画像を映すプロジェクションマッピングが最近の話題だが、現代美術の世界でも以前から、著名な建造物を梱包するクリストや原爆ドームなどに批評的な映像を投影するK・ウデイチコらが知られてきた。フランスの美術家JR30)もこの系譜といえる。でも、日本初の個展からは、ずっと今日的な振る舞いが見えてくる。
 当初は、暴動が起きたパリ郊外の若者たちの顔写真を引き伸ばして高級住宅街の壁に貼るなど、どんな顔をどこに貼るかという政治性が表に出ていた。
 表現としての強度を高めたのが、200810年に世界各地で手がけた「女性たちはヒーロー」のプロジェクトだろう。戦争や犯罪、政治的衝突にさらされる女性たちの、やはり大きな白黒写真を貼ってゆくのだが、その場所と貼り方が心憎い。
 ブラジルでは衝の大階段に巨大な顔を貼り、ケニアのスラム街では鉄道が走る土手に巨大な鼻と口の写真を貼っておいた。列車の車両には大きな両目が貼ってあるので、土手を進むにつれて目と鼻口の組み合わせが変わってゆく=写真上。このスケール、ユーモア、何より風景を一気に変える着想に舌を巻く。
 11年に始まった「インサイドアウト計画」も構えが大きい。世界中の誰でも、自分の写真を専用サイトに送ればJRからポスター大になって送り返されてくるし、彼が運ぶ撮影機で自分を撮れば、やはり大きな写真が手に入る。それを街角や路上に貼ればいいわけだ。すでに十数万人が参加したという。
 東北の被災地にも撮影機を持ち込み、約400人の写真が現地の家や壊れた建物の壁、打ち上げられた船に貼られ、一部は東京の個展開催館の外壁や展示室も埋めている=同下。館内にも撮影機があり、来場者もプロジェクトに参加できるのだ。
 人の顔という古代以来のモチーフを使いつつ、街の風景を柔軟に変え、ネットを通じて世界中の人々を誘い込んでゆく。しかも自由度を保つために資金的な支援を受けず、白身の写真作品の販売などでまかなっている点は先達のクリストと同じだ。
 スケールが大きいのにカジュアルで、でも意外に正統派の作家なのだ。
(編集委員・大西若人)
 ▽30日まで、東京・神宮前のワタリウム美術館。月曜休館。

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