2013年6月1日土曜日

三島と作った劇的構図(522asahi)

細江英公「薔薇刑#29
 「薔薇刑」は作家の三島由紀夫さんを被写体とした写真集です。出版社から突然、三島さんの評論集のために、著者の希望で写真を撮ってほしい、という依頼がありました。そ
れ以前から僕は舞踏家土方巽さんを撮影しており、三島さんは土方さんの公演パンフレットに文章を寄せていたので、僕の写真を見ていたようです。
 評論集の写真が気に入ってもらえたので、今度は僕の方から撮影を依頼したら、「明日でもいいよ」と二つ返事。当時すでに売れっ子でしたが、他の仕事より優先してくださ
り、約半年間撮影を続けました。
 最初に撮ったときから「好きにしていい」といわれました。僕もずうずうしいので、ホースで三島さんをぐるぐる巻きにしたり、工場の廃屋に入り込んだり。そうするうちに被
写体がのってきて、写真家との一体感が生まれてきました。
 三島さんがルネサンス絵画の画集を「これ、いいでしょう」といいながら見せてくれたことがあります。そのイメージを写真に生かせないか、という思いがあったのでしょう。その画集を借りて、背景画専門の画家に描いてもらった複製画や、複写した写真を撮影に持ち込みました。この作品はその一つ。三島邸で、大切にされていた置き時計とテーブルの下に三島さんに潜り込んでもらい、ルネサンス絵画をスライドで投影しています。
 三島さんの鍛えられた体は、肉体に関心を持っていた僕にとって完成された被写体でした。一方、三島さんはギリシャに理想を見いだし、そこからルネサンスにも関心を持って
いた。ルネサンス絵画の中に入った「薔薇刑」の写真は、その意味で三島さん自身が見たかった劇的なイメージを、僕とともに作り上げたといえるのかもしれません。
       (聞き手・西岡一正)
 ほそえ・えいこう 1933年、山形県生まれ。東京写真短大(現・東京工芸大)卒業後、フリー写真家として活動。代表作に舞踏家・土方巽を被写体とした「鎌鼬(かまいたち)」、肉体の抽象的な造形に迫った「抱擁」など。早くから欧米の写真界と交流し、国際的に活動する。文化功労者。

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