2010年4月28日水曜日

日本文化は未成熟?(425asahi引用)




カワイイは「戦略」村上隆さん
解釈に誤解、当惑 黒沢清さん

「クール・ジャパン」テーマに東工大でシンポ

カワイイは「戦略」「カワイイ」表現が、日本のサブカルチャーの象徴として海外で注目されている。背後に見え隠れする「未成熟」の問題を、どう考えるか。


「クール・ジャパノロジーの可能性」と題した国際シンポジウムが3月上旬、東京・大岡山の東京工業大であり、一線で活躍する作り手と研究者らの議論が客席をわかせた。
 シンポジウムは2日間の日程で、初日は「もう一つの日本学」がテーマ。「日本的未成熟」の議論は2日目に行われた。美術家の村上隆さんと映画監督の黒沢清さん、.米国在住の比較文学者K・ビンセントさん、社会学者の宮台真司さんが出席、批評家の東浩紀さんが司会を務めた。
 作り手にとって、近年の「クール・ジャパン」の推進ムードは、浮ついたものに見えるようだ。国際的に成功を収めた村上さんだが、「(世間の理解のような)簡単なものじゃない」。アニメ風のポップアートを選んだのは、戦前・戦後を通じて日本の美術界が抱いてきた西欧コンプレックスを切断したいと思えばこその戦略だったという。
 「(海外市場の)中に入り込み、複雑なものを単純化して、どうすればより深いメッセージを読み取らせられるか、根気強く挑戦してきた」
 黒沢さんも海外に熱心なフアンをもっ。だが①静かで②スタイリッシュで③平面的=日本らしい、というお決まりの解釈の「誤解」に、何度となく当惑してきた。
 「好意的な評価なのですが……。ただ最近は、ねらいをほのめかせば伝わるはずと期待している自分も、筋違いだと思い至った。主張を明確に伝える欧米の人の日には、未成熟に映るかもしれない」
 そのうえで黒沢さんは、まだ若い表現様式である映画は、動物のようにカメラをただ向けるだけで成立すると述べた。「だから日本人はたけてきたのかもしれない」
 ビンセントさんによれば、明治維新の後、日本人は成長=近代化という価値を内面化して「集団的変身」を遂げた。戦後も大江健三郎らが米国依存に甘んじる「去勢された」敗戦国の姿を描き、江藤淳らが母性社会の特質を指摘するなど、未成熟は克服すべき幼稚さとされてきた。
 だが現在、村上さんのアートには西欧への風刺があり、未成熟を逆に楽しむ姿勢がある。黒沢さんの映画には大人になれない父親が登場したりする。ビンセントさんは、「成熟─未成熟」の二項対立を超えた想像力に期待をにじませた。
一方、1960年代以降のサブカルチャー史をたどってみせた宮台さんは、社会からの離脱、いわば「無関連化」を促す機能と解放感を伴った「カワイイ」という文化が、タブーなき何でもありの風潮の中で終わった、と語った。
 会の終わりに注目されたのは、村上さんの「本質的に、カワイイものは死と直面している。それゆえにカワイイ」との発言。映画「アバター」のヒットが、人々の中に潜む大規模な死への願望を感じさせるように、もっとすごいテーマがあるのでは、と。カワイイ恐るべし、を印象づける幕切れだった。
      (藤生京子)

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