2012年9月20日木曜日

再び交差する2人の軌跡(905asahi)

辰野登恵子 柴田敏雄展
 2人展の妙味とは、両者が描く人生の、あるいは表現の軌跡が、いかに交わり、離れ
るかを見ることにある。すでに高い評価を得ている、画家の辰野登志子(62)と写真家の
柴田敏雄(63)の場合、東京芸術大の油画専攻の同級生という共有点があるが、展示はま
ず、現在の起点となる1980~90年代あたりまでの作品群を、辰野、柴田、辰野、柴田と交互に見せてゆく。

 この時期の辰野が描くのは、花模様や、タイル壁のようなひし形、円の集合休。しかし具象絵画とは言い難く、世に実在するパターンを画面に収め、鮮やかさと渋みを備えた色彩や、奥行きのある層を重ねて、伸びやかな抽象的世界を展開している。
 対して、柴田の最初の展示室は出世作の「日本典型」の連作だ。ダムや擁壁など、日本の山間を撃つ構築物をモノクロ画面で静かに見据え、そこに潜む造形パターンを取り出して見せる。ここまでで、2人が外部世界から「与えられた形象」を抽出し、作品化していることが証明される。
 この後に、同一グループで活動した20代までの作品が続く。ポップアートに傾倒しともに写真製版による表現を手がけるなど、ほぼ同じ位置から出発したのだ。そこから辰野は絵画へ、柴田は写真へと離れてゆくが、図録にある「生成のメカニズム」はどこかで共有していたのだろう。
 90年代以降の展開に、さらに驚く。辰野が見せるのは、箱や丸めたルーズソックスを
重ねたような造形だ=写真上(「UNTITLED 9714」 97年、原美術館蔵)。
立体感があり、触感も重みも増す。しかし具体物というより、絵画としての実在感やリアルさを獲得するべく格闘しているように映る。
 他方、柴田は色彩という要素を加えつつも、抽象度を加速。「群馬県甘楽郡下仁田町」 (2008年)=同下=などは具体的な地名とは裏腹に、どこの何をどう撮ったのかすぐには判然とせず、ただ色と形のパターンが心地よくリズムを刻んでゆく。
 そう、辰野は抽象画で実在感を獲得し、柴田は実在物を写しっつ抽象画を超えそうな純度に達している。2人の軌跡は再び交差したのだ。合わせて約300点の連なりに、絵画と写真という表現の幅広さを再確認する。ここには、「生成のダイナミズム」がある。 (編集委員・大西若人)
 ▽10月22日まで、六本木の国立新美術館。火曜休館。

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