2012年3月24日土曜日

「もの派」輪郭くっきり(321asahi)

世界美術史への定着に挑む
 1960年代後半~70年代前半、石や鉄、木材といった「もの」そのものを捷示
 し、物賓同士、物寮と空間の関係を問うような現代美術が、日本に相次いで現れた。
 「もの派」と称される動向は、内外の評価が高く、いま米国では大規模な「もの派」
 展が開かれている。米国在住の美術史家・富井玲子さんが同展を評した。


米の展覧会 富井玲子さんが見る

 「太陽へのレクイエム もの派の美術」展が、4月14日まで米国・ロサンゼルスで開催されている。といっても美術館の主催ではない。プラム&ポーという商業画廊で、取
り扱い作家の一人には村上隆が入っているから、日本とは縁がある。
 ロスらしく自然光を生かした屋内スペースとともに、駐車場なども活用した野外展示もある大規模な企画。例えば、中心作家の関根伸夫の場合、「もの派」の起爆剤とな
った「位相−大地」 (68年)の再制作のみならず、それ以前のトリッキーな作品、またスポンジや水の作品、さらには石を鏡面スチールの柱の上に載せた代表作まで集中的に紹介されている。
       
 くわえて李禹換を中心とした多摩美大系作家のほかに、高松次郎、横倉康二、高山
登、原口典之が出品して、「もの派」の輪郭が見えるようになっている。
 「もの派」展は国内でも海外でも何回か開催されてきた。が、本展は、展示の美し
さとインパクトで傑出しているだけではなく、世界美術史という舞台で日本の現代美術
がいかに歴史化に耐えていくか、という緊急課題に正面から取り組んだ点で重要だ。
 戦後日本美術、特に60、70年代の現代美術は、その先鏡な実験性でこれまでも海外で
高い美術史的評価を得てきた。しかし、世界美術史における定着度は必ずしも高くな
かった。
 なぜか?
 それは、美術には審美的・学術的評価とは別に、作品のモノとしての市場的評価があ
るからだ。これは単に商品売買の問題ではない。個人コレクターに収集され、さらには
美術館の収蔵品となることでモノとしての評価が固まっていく。これが学術的評価と連
動して総合的評価となり歴史に定位置を確保する。
 特に「もの派」の作品は一回性の設置として構想されることが多いので、モノとして
の作品が残らないきらいがある。
 本展は、吉竹美香という堅実な「もの派」研究者がゲストキュレーターを務めて学術
的評価を目に見える形で提示するとともに、商業画廊が作品のモノ化(永続化)に熱心
に取り組んで市場的評価の向上をめざし、それを受けて立った作家たちが全面的に協力して成立した稀有な企図である。そのうちどの一着が欠けても、本展は画竜点晴を欠い
たことだろう。

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