「オノデラユキ 写真の迷宮へ」展
ありのままを撮ることが写真の本道だと考えるならば、オノデラユキの写真ほどそこから離れたものはないだろう。ある作品では新聞や雑誌の切り抜きを人形のよう
に見せ、別の作品では人工の壁面で背景を隠し、撮影場所を分からなくしてしまうのだから。
だが、「オノデラユキ 写真の迷宮(ラビリンス)へ」展を見ると、作者のたくらみが実は、写真と真摯に向き合う行為であることがよく分かる。
1962年生まれ。93年からパリを拠点にしている。2003年に写真界の芥川賞と称される「木村伊兵衛写真芦、06年に仏の写真業「ニエプス賞」を受賞した。
首都圏の美術館では初の大規模な個展となる今回は、これまで手がけた全18シリーズのうち9シリーズを選び、約60点を並べた。
初期のシリーズ「古着のポートレイト」=写実上=では、パリの空を背景に、古着が生きているように立つ。見ていると持ち主を知っているような気持ちになる。
今も制作が続く代表作の「Transvest」シリーズでは、ポーズをとった男女の人影が大きく写る。だが、人影に実体はなく、新聞や雑誌の切り抜きだという。モノクロの2シリーズは、レンズの向こうに無いものまでが懐かしさと共に伝わってくる。一方、最新シリーズの「12Speed」=写真下=では、作風が大きく変わる。展示はモノクロとカラーの作品が各4点。中でもカラーが刺激的だ。
仏の森で撮っているが、フレームに収まるのは作家が仮設した濃いピンクの壁面のみ。台に置かれたポップな小物も、ピンクにのみ込まれて目立たない。実在する静
物をカラーで撮っているのに、かえってレンズの向こうが分かりにくくなっている。
「カメラには制約があり、目で見るのと同じようには撮れない」とオノデラユキは亭つ。作家は写真家の技でつじっまを合わせようとはしない。むしろ、万能とはい
えない暗箱の不思議さを、あの事この事で作品にし、私たちに示しているのだ。 (西田健作)
◇26日まで、東京都目黒区の東京都写真美術館。祝日を除く月曜と21日休み。写真集『オノデラユキ」 (淡交社)も出版。
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