3Dプリンター用 性器データ送信
自身の女性器を3Dプリンターで復元できるデータをネット上で送付した女性が今月、わいせつ物頒布等の疑いで逮捕された事件が注目されている。データとプリンターによって生まれる立体は、造形表現の観点からどう考えられるのか。
芸術表現における性器の描写は、現状では即摘発とはなっていない。近年の美術展では性器を措いた春画も、年齢制限などをつけて展示されている。逮捕された女性も「ろくでなし子」の名で活動し、自らの女性器をかたどった作品の個展などを開いてきたという。
当たり前の技術
今回の直接の容疑は、男性会社員に対し、女性器の形を復元できる3Dプリンター用のデータがダウンロードできるURLを、メールに記して送信したというものだ。3Dプリンターは型がなくても立休物が作れるため近年、医療や家電などの分野で普及、家庭用のものも売り出されている。アートの世界でも、「もう既存の技術の一つとして使われているので、3Dプリンターアートとか言わない状態」 (藤幡正樹・東京芸術大数援)だという。
美術評論家の暮沢剛巳さん(48)は「再現されたものを見ていない以上、個射に
は判断できない」としたうえで、写真との近さを指摘する。「女性器から直接型どりしてプリンターで出力できる形なら、性器を直接撮ってプリントした写真に近いと判断されたのかもしれない」
一方で、「精細なデータであるほど、できるものは医学標本のようになって、わいせつ性は希薄になるのではないか」と指摘する。
「発注だけ」も芸術
では、データを送信することは表現行為なのか。
設計図などを元に業者などに作らせる「発注芸術」という発想は、1960年代ごろからあるとされる。建築や工業デザインなどで発注は当たり前だが、近代の美術では「自分で作る」という作家性が重視される。それを播さぶるため、例えば彫刻の制作でも、自らは手を動かさず、設計図などで「発注するだけ」であることを強調する概念芸術的な行為だ。
さらに、「指示書」だけの表現も存在する。美術家の冨井大裕さん(40)は立体
作品だけでなく、指示書だけの表現も手がける一人。一例を挙げれば、展示室に
置かれた指示書に組み体操のような絵と指示が記され、鑑賞者がそれに従って挑戦すると、人の体によって「形」が現れる、というものだ。「完成したものだけでなく、作り方にも意味がある」と話す。
では、今回の手法やデータをもとにできあがる造形はアートなのか。暮沢さんは、「表現は多様化し、絵画や彫刻のように形式がアートであることを保証する
わけではない。そうなると、新しい価値を提示できているかが判断のよりどころになるだろう」と話している。(編集委員・大西若人)