2013年8月29日木曜日

菌この奇妙な存在(827asahi)

若手研究者ら「珍菌賞」創設

  「地味」 「気持ち悪い」などと敬遠されがちな菌類に注目してもらおうと、若手研究者らが「日本珍菌賞」を創設した。一般人の理解を得るのが目的のはずだが、上位に並んだ顔ぶれを見ると、やっぱり……。
「奥深い世界、共有したい」「林の申でこのキノコと出あった時は神々しさに見とれた」「線虫に寄生する菌は数あれど、これほどユニークな感染の仕方は見たことがない」
 簡易投稿ブログ「ツイッター」で交わされた選考過程のやりとりだ。研究者たちに小学生まで交じり、自分の「一押し」を書き込んでいた。
 珍菌賞は、若手研究者でつくる「菌学若手の会」が、奥深い菌の世界を広く知ってもらいたいとネット上で企画した。メンバーの一人で、国立科学博物館植物研究部(茨城県つくば市)の研究者、白水貴さん(31)は「ワクワクする気持ちを共有したい。自然の慎
の深さを感じれば、人間として生きやすくなるんじゃないか」と熱い。
 ツイッターやフェイスブックで候補を募り、反響の大きさを加味して蕃査した。1位に輝いたのは「エニグマトマイセス」。トビムシの精包に寄生し、その精子を食べる菌だ。6月にあった日本菌学会の懇親会で表彰式が開かれ、研究している出川洋介・筑波大助教に、植物学者、南方熊楠のデスマスクが贈られた。
 このはか、グロテスクな「ヤプニッケイもち病」が2位、ひわいな形と名前を持つ「タケリタケ」が堂々の3位に。アリに寄生し、2011年に新種登録されたばかりの「コブガタアリタケ(写真は「日本冬虫夏草の会」提供)が4位、福島第一原発事故の旧撃滅区域内にある阿武隈山地に生える希少種「センボンキツネノサカズキ」が5位に入った。
 遊び心から生まれた企画だが、背景には、研究者としての危機感もある。すぐに役に立つ研究が重んじられ、基礎分野への研究費は先細る一方だ。「地道な研究が、何百年後かに人類に貢献する可能性もある。フアンを増やし、基礎研究への理解が広まる一歩になれ
ば」と白水さんは話す。来年以降も毎年実施する予定だ。    (仲村和代)
菌類
 細胞が糸状に連なった菌糸や、酵母のような単細胞からなる生物。キノコやカビ、酵母などが含まれ、「細菌」と区別するため「真菌」とも呼ばれる。自然界で動物の死骸や植物を分解するなどの役割がある。地球上に約150万種が生息すると言われるが、確認されているのは約10万種に過ぎない。毎年、1千以上の新種が発見されている。

美術学科オープンカレッジ第4弾!!!!

今日の講座「絵画と仕事─ARTな世界の過ごし方」を終えて、
参加者全員ビーナスになったつもりで記念撮影!

2013年8月28日水曜日

紙の魅力存分に「PAPER」展(827asahi)

驚きと楽しさと。東京・目黒の目黒区美術館で9月8日まで開催中の「PAPER」展には紙を素材に6作家が出品している。

 第1室で出あうのは、既に製品化されているデザイナーの表現。トラフ建築設計事務所「空気の器」は、切り込みを入れた紙を広げると器の形になる。天井からつるされた色とりどりの器が、美しい。寺田尚樹「テラダモケイ」は建築模型に添える、100分の1の紙製の人間や動物、家具。組み合わせてデートや面接の場面を作っているのも楽しいし、気がつけば、階段の踊り場に動物の行進が=写真上。
 美術家は鈴木康広ら。なかでも植原亮輔と渡過良重の「時間の標本」が魅力的。古書の見開きに措いたチョウの絵の周囲を切り抜き、今にも飛び立ちそうだ=同下。

歴史と記憶と(827asahi)

映像と言語、相互反応
米田知子展

 駅のホームがいくつも連なるさまを真横から収めた写真があり、秋の草原にたたずむ席を写した一枚がある。東京都目黒区の都写真美術館での写真家・米田知子(1965年生まれ)の個展には、対象を精密な構成で淡々と捉えた写真が並ぶ。
 配布された作品リストを見て、前者は伊藤博文が暗殺された中国の現場、後者は東日本大震災後の福島県飯館村の風景だと知る。
 米田は「写真イメージと言語の関係に興味がある。衰勢だけではなく、歴史性や社会性、さらには受け止める人によって『見えること』は変わる」と話す。悲劇的な事件の現場も多く、「恐ろしいことば、どこでも起きうることを示したい」。今回は、アジアにか
かわる作品を集めている。
 兵庫県に生まれ、現在はロンドンなどが拠点。両親から聞いた戦時中の話などの影響もあって、歴史や記憶に関心を持つようになったという。一方で、「写真としてのイメージの強さ」も重視する。「まず関心を引き出したい」からだ。
 イメージの強度なら、歴史上の人物が使用した眼鏡と、その人に関わる文章を一つの画面に収めた連作が挙げられる。今回も、坂口安吾や安部公房の眼鏡を使った新作が登場。見る側はタイトルを知った後に、おなじみの彼らの肖像を思い浮かべつつ、再度画面と向
き合うことになる。
 実はタイトルを知って驚いても、米田の写真自体は変わらない。変わるのはむしろ、次の写真を、あるいは他の写真家の作品を見る際の、見る側の態度だろう。米田の者現は、そのとき初めて完措するともいえる。 (編集委員・大西若人)
 ▽図録は平凡社から。

空気に黒い糸で描く塩田千春展

 高知市の高知県立美術館で個展が開かれている現代美術家・塩田千春(72年生まれ)。
展示空間をまるごと使うインスタレーション(空間展示)の手法で、彼女の心象世界へ
といざなう。
 大阪好守生まれ。ここ十数年間はベルリンを拠点に「記憶」や「死と再生」などを主
題に制作を続けている。
 両親は高知県生まれで、幼い頃から夏休みなどに両親と帰省し、高知での思い出が創
作の原点と塩田は振り返る。
 色濃く表れているのが、高知の伝統的な婚礼衣装を一対の鉄枠に収め、黒い糸でクモ
の巣状にからめた「存在の状態」だろう。婚姻を象徴しているのは疑いない。黒い糸を
使う表現について「空気のなかに線で描く」と言う。
 展覧会の副題にもなっている「ありがとうの手紙」と題されたインスタレーションは、約2400通の手紙か、黒い糸に絡み、結ばれ、高さ4手元の部屋いっぱいに展示されている。疾風に舞い上がるかのように。
 親しい人たちへ感謝の気持ちをつっった手紙は、展覧会のために高知の人たちから公
募した。「いつも支えてくれてありがとう」「お父さん、お母さん、産んで育ててくれ
てありがとう」
 手紙を読みながら巡っていると、記憶の申の誰かと話をしている自分に気づいた。「高知でなければできない、私の展覧会」と語った塩田の胸の内が、少しだけわかった。   (森本俊司)

2013年8月22日木曜日

「歌舞伎イラストレーション」展




TIS (東京イラストレーターズソサエティ)主催、恒例の展覧会
今年は新装なった歌舞伎座に引っ掛けたか「歌舞伎」がテーマ。
美術学科主任の建石修志も出品しています。

2013年9/3(火)~10/3(木)
銀座クリエイションギャラリーG8
http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/g8_exh_201309/g8_exh_201309.html

独の写真家グルスキ−、日本で初個展(821asahi)

巨視と微視、自在に切り替え

 現代写真に新たな表現は可能か。その間いに、作品そのもので答えるのがドイツの写真家アンドレアス・グルスキーだ。日本初の個展が東京で開かれている。
 グルスキーは1980年代半ば、風景の中に違ぶ人々を大型カメラで撮影したシリーズを制作。広い画角と細密な描写が併存する写真で注目された。90年に場立ちの人々で厳然とする「東京証券取引所」を制作したころから、モチーフが画面全体を生め尽くす作風に転じた。本展は現在にいたる彼の歩みを、巨大なプリントを中心に65点でたどっている。
 92年ごろからデジタル技術を導入。その作品は広大な空間を高密度かつ高精細に描出する、巨大なイメージへと飛躍した。例えば、カラフルな商品が広い店内にひしめく「99セント」(99年)は、従来の写真術ではありえない、しかし圧倒的なリアリティーを構えている。
 驚くべきは巨視と微視を自在に切り替える、その視点。近作の「オーシャン」シリーズは、南極大陸やインド洋全体を視野に収める。衛星写真を利用し、繊細にコントロールした海洋の深い色彩に目を奪われる。.続く連作「バンコク」は、一転して川面の一部を切り取る。抽象絵画を思わせるが、細部をみればゴミや油膜が浮かび、現実に引き戻される。一連の作品に社会批評を読み取ることもできる。それは、グルスキーが雑誌や新聞から収集した画像から着想を得ていることに由来する。だが、その視点は人間の営みを追うジャーナリズムとは異なる。あえて言えば、ヒトの行動を観察する超越者の視点だろう。それゆえ、グルスキーが創出するイメージは魅惑的であると同時に戦慄的でもある。
(西岡一重)
 ▽9月16日まで。東京・六本木の国立新美術館。火曜休館。

「内臓感覚」展(807asahi)

体内の感覚視覚で表現

 刺激的な映像やスマホの画面など視覚優先の情報が駆け巡る今の世にあって、逆に身休感覚や皮膚感覚を生かした、あるいは題材とした美術表現も目立っている。この展覧会はさらに踏み込み「内臓感覚」。内外の13 作家には、一度見たら忘れ難い強度を備えた表現が多い。
 草間蒲生(1929年生まれ)は60年前後の網目の絵画とともに、布製の小立体100点による「雲」(鎚年)を出品=写真上。色こそ白いものの、肉片や内臓のようでもあり、うごめ
くような存在感に圧倒される。
 今廣は解剖学者の故・三木成夫の考察に刺激を受け、根源的で精神にも関わるという「内臓感覚」を手がかりにしている。こうした存在を、視覚表現で伝えうるかがポイントだろう。
 オランダのサスキア・オルドゥオーバース(71年生まれ)による、白い抽象彫刻が滴り溶けるような映像には、ぬるぬる感を味わ一つ。スウェーデンのナタリー・エールベリとハンス・べり(ともに78年生まれ)は、生々しい身体が登場する、コミカルにして毒気のある粘土のアニメを展開。志賀理江子(80年生まれ)は写真の表面にぬめりすら感じさせる。
 女性作家の表現が目立つのは、「内臓」を意識することが多いからか。男性では、体
にハンディを抱えつつ花の生理に向き合った故・中川幸夫の臓器のようなガラス器や、胎児を思わせる人物像を毒々しい色づかいで描き出す加藤泉(69年生まれ)の絵画が見逃せない。
 そして、スイスのピピロッテイ・リスト(62年生まれ)が円形の展示室の全壁面に映像を投影した「肺葉(金沢のまわりを飛び交って)」 (09年/13年)=同下。泥水の中を歩んだり、果物を手でぐじゃぐじゃに握ったり、花を食べたりといったイメージが鮮やかな映像と気だるい音楽とともに続き、自分も体験している感覚に。あるいは作者の体内を巡る味わいか。
 多くに通じるのは、突き詰めた内側が「クラインの壺」のように外側に表出した感触や、視覚表現が「ぬるぬる」といった擬態語で表される触覚を導く快楽、官能があること。これぞ表現の妙味といえるだろう。
 環境汚染、難病、放射線にさらされる現代。身体、そして内臓は表現の集約点の一つとなっている。 (編集委員・大西若人)
 ▽9月1日まで、金沢市の金沢21世紀美術館。19、26日休館。図録は赤々舎から。

2013年8月17日土曜日

オープンカレッジの3弾!

遊びのシュルレアリスム─偶然から生まれる美術
フロッタージュ、デカルコマニーシュルレアリスムが開発した方法を楽しむの図。

2013年8月13日火曜日

美術学科オープンカレッジ

8/16日 12時よりー美術学科オープンカレッジ第3弾!!!
「遊びのシュルレアリスム─偶然から生まれる美術」
デカルコマニー、フロッタージュなどシュルレアリスムが発見した方法を
遊んでみる。遊びながら、想像力と創造力について想いを巡らせよう。
https://www.ndc.ac.jp/opencollege/

2013年8月7日水曜日

2013夏のオープンカレッジ始まりました!

こんにちは、美術学科の太田です。


8月から学科別のオープンカレッジが始まりました。
美術学科の授業の様子が簡単ではありますが、体験出来ます。
ぜひご参加下さい。

本日、8/7はドローイングの講座でした。

















参加者の方々はもくもくと作業‥‥10分間スケッチなどもあったので、
沢山の作品が仕上がりました。

次は8/8の石にペイントです。
通常授業は紙に描くときのが多いのですが、今回は石に絵具でペイント。
自然物の形をいかして動物を描いて見ましょう。

参加お待ちしてます。

2013年8月5日月曜日

桜井進の数と科学のストーリー(804asahi)

計算の世界「i」で縦横無尽

 「虚数」という不思議な数があります。2乗すると負(マイナス)になる数です。1(;世紀のイタリアの数学者ジュロラモ・カルダーノ(150176)によっ七発見されていましたが、iXi1となる虚数iは、長い間数学者の間でもリアルな存在として受け入れられませんでした。
 私たちが現実世界で出くわす数は「実数」です。体重は70キロ、気温−5度、1つレ=9802円、12カップなどがそうです。実数は、正の実数も負の実数も2乗すると正
の実数になりますね。
 2乗して一1になる「虚数」と「実数」を複合した「複素数」と呼ばれる数の世界があります。「複素数」は実数xyと虚数iを使い、+yiと表される数です。16世紀、解を持たないとされていた方程式にも解を与えられるように導入された数が「複素数」です。ここから発展してドイツの数学者カール・フリードリヒ・ガウス(17771855)によって、
「どんなn次方程式も複素数の範囲に解を持つ」という「代数学の基本定理」が証明されました。 一方で、これまでこの連載に登場してきた三角関数、一指数関数、対数関数も、虚数を通して深く結びついていることを明らかにしたのが、レオンハルト・オイラー
170783)です。.有名な「オイラーの公式」ですね。オイラーは、「i」という乗り物で計算の世界を縦横無尽に旅をして、新たな地平線にたどりつきました。単に「方程式の解が表現できるようにする」という目的をこえ、虚数の威力を示したのです。
 20世紀、人類は量子力学と呼ばれる新しい理論を手にいれました。ここでは複素数が決定的な役割を演じます。数学を超えて素粒子を探求する物理学にまで虚数と複素数の威力が及んだのです。しかし、小数などの実数を使い慣れるまでに時間がかかったのと同様、虚数と複素数もまた、私たちがリアリティーを感じるまでには長い時間がかかりそうです。(サイエンスナビゲーター)

2013年8月2日金曜日

制作風景動画「フェルメールの少女(仮題)」Vol.6

こんにちは美術学科の菅原です。
制作風景動画のVol.6です。

制作風景動画「フェルメールの少女(仮題)」Vol.5

こんにちは美術学科の菅原です。
制作風景動画のVol.5です。

大竹アート熱風トリプル(731asahi)

香川県内3カ所で大規模展示
廃棄物・記憶多彩に

 絵画や立体から写真、スクラップブックまで、多彩かつ旺盛な活動を続ける現代美術家・大竹伸朗(57)がこの夏、熱い。イタリアで開催中のベネチア・ビエンナーレに続き、香川県内3カ所で同時に作品を発表しているのだ。大規模な回顧展と新作・近作の展示が二つ。濃密でエネルギッシュな作品世界を展開している。
 大竹は、「既にそこにあるもの」と呼ぶ既成の事物、それも廃棄物やゴミ、見捨てら
れた風景といったものに感応し、積極的に作品に取り入れてきた。ベネチアに出展申
の、古雑誌やチラシなどを貼り込んだ「スクラップブック」シリーズが代表作だ。
              
 高松港から船で約20分の女木島に設置された新作「女根/めこん」も、その延長上に
ある。休校中の小学校校庭に立つオレンジ色の巨大なブイ(浮標)。頂上にはヤシの木
が植えられ、足元では鉄板で覆われた小屋に樹木の根や様々な植物が貼りつく。ブイは
大竹が拠点とする愛媛県宇和島市の海岸に漂着したもの。廃棄された人工物と熱帯系の
植物が絡み合い、「これまで無かったもの」に変化していくことを予感させる。
 廃棄物は、ここ数年の作品を中心とした大規模個展「ニューニュー」でも目を引く。
会場はJR丸亀駅前にある丸亀市猪熊弦一郎現代美術館。その屋上に「宇和島駅」の看
板が掲げられる。会場入り口の吹き抜けの空間には、北海道のボウリング場に設置され
ていた巨大なピンが立つ。いずれも、譲り受けた廃棄物にネオン管などを組み込み、風
雪にさらされた事物に新たな命を吹き込んでいる。
 「既にそこに為るもの」に惹かれる理由を、大竹は「記憶や時間の層が既に含み込ま
れているから。そこから新しいものを作ることに興味がある」と話す。
 「焼憶」は、自作の絵画や制作メモなどを陶のタイルに焼き付けた立休の新作。その
制作を通して、自らの作品に通底する「記憶」というテーマに改めて着目したという。
そこから組み上げたのが、高松市美術館で開催中の回顧展「憶速」だ。
 1960年代から現在までの作品534点を七つのセクションに構成。多種多様な素材とメディアを駆使し、有機的につながる作品世界を整序して見せている。
 興味深いのは「スケッチブック一日常の風景」と「貼既にそこにあるものと記憶の
層」のセクション。初公開となる、77年から現在までのスケッチブック96冊は、世界を
巡る美術家の「旅と日常」を映す。その中で見いだされた膨大な事物や風景のイメージ
が、やがて平面や立体に貼り込まれ重層的な記憶を織りなしていく。「貼」の作品群が
放つ、混沌としたダイナミズムに目を奪われる。(西岡一正)

 ▽「女根/めこん」は瀬戸内国際芸術祭2013の参加作品。夏会期は91日まで。秋は
105日~114日。「ニューニュー」展は114日まで。「憶速」展は91日まで。

澄川喜一「そりのあるかたちー1」(731asahi)

木の素材的宿命、生かした

 木は切ったり、水分が抜けたりすると、反り、割れるという素材的宿命を持っています。それを形に押し込めては、木を殺してしまう。木の美しさを生かせないかと考えたら、「そりのあるかたち」になったんですよ。これが第1作です。
 脚のある水平面の上に反りのあるものが、少しズレて載ると面白いな、と。空間を大胆に切って視覚的な音楽を奏でられないかという狙いもありました。
 木に関心を持ったのは、山口県岩国市にある旧制の工業学校に通っていた頃です。錦帯橋を見て木造建築に興味を抱き、古い建物を調べました。五重塔なんかは、木の性質をう
まく生かして組み上げているんですよ。これが、彫刻をやろうと思ったきっかけです。
東京藝術大では木彫の平櫛田中先生にも教わりましたが、粘土を使う塑像が中心。新制作展に出品し始めても、当初は塑像を出していました。木を使い始めたのは、1961年にアトリエを持ってからです。
 この作品を新制作展に出したときも不安でしたが、幸い、その後、平櫛田中賞をいただきました。誰かが「錦帯橋だろう」と言いましたが、どこかで意識していたのかもしれま
せん。
 私は田中先生がご存命中の最後の受賞者です。先生は私の作品について「分からんなあ」と話されたそうです。でも先生の場合、「分からん」は面白いという意味。芸大退官
のときも、「芸術は自分で探すもの」とおっしゃいました。人のまねをするな、新しいものを作れという教えで、ずっと大切にしてきました。
 今も、もっといいものができるのではないか、と続けています。それが、デザイン監修を務めた東京スカイツリーにもつながりました。秋の新制作展にも「そりのあるかたち」
を出します。 (聞き手・大西若人)
 すみかわ・きいち
1931年、島根県生まれ。東京芸術大学彫刻科卒。同大教授、美術学部長、学長を歴任した。カーブした木を組み合わせた抽象彫刻の方、石や金属による野外彫刻でも知られる。2004年に日本芸術院会員、08年に文化功労者。

現代アートの楽しみ方 藤田令伊(731asahi)

異なる世界への「気づき」

 前回、現代アートを見るコツとして「わからない」にこだわらず、作品に「問いかけ」てみることを提案しました。じつは、「わからない」にこだわらないことは作品に対するオープンマインドを、「問いかけ」は理性的な見方(考えること)を促すものでした。そのほか、感性的な見方(感じること)なども交えて私たちは現代アートを見、気分転換から知的刺激までさまざまなものを得ています。
 得られるもののなかでも特筆すべきなのが「気づき」です。当たり前のことですが、ふだん私たちは自分自身の価値観の世界に生きています。しかし、私の価値観とあなたの価値観は同じではありませんから、同じ時代、同じ社会で暮らしていても、あなたと私はいわば別世界にいるようなものです。にもかかわらず、私たちはそのことに気づかず、ついつい自分の価値葡でのみ物事を見がちです。
 現代アートは直感的、実感的に異なる世界の存在に気づかせてくれます。写実の作品は巨大な女性の像です。人間がただ「大きくなる」というだけで、圧倒されるものがあります。そして、彼女と自分の世界の差異に理屈抜きに気づかされます。
 多様性の時代といわれ、共存がキーワードのいま、自分とは異なる他者に気づき、共感や理解を試みるのは重要で必要なことです。現代アートはそうした時代のテーマにも「気づき」の力で応えうるものなのです。(アートライター)